20221221

 仕事終わりにテアトル新宿で「ケイコ 目を澄ませて」を見にいく。まず、映画の冒頭でケイコが日記を書く様子の描写から始まっていた。文字を書く音とコップの水を飲んだ後に氷を噛む音の音量が身体の節々に響き渡る。そして、ジムでひたすらケイコが殴るミットの音も後で録音した音としてはシアターを響かせる程の破裂音だった。しかし、映画全体を構成するボクシングの熱量は冷めているともいえる。観戦者の少ない会場で行われるボクシングの試合は、とても静かにみえた。こんなに静かなボクシング映画はあるのかと。

 クリント・イーストウッドの「ミリオンダラー・ベイビー」でも老人と若い女性のボクサーが主軸となっており、お互いの関係性について試合よりも重点を置いて取り上げる。今回のケイコの映画もそうした関係を主軸にした映画ともなっているが、話は主に、耳が聞こえないボクサーが試合に出るというコンパクトな筋書きとなっており、ミニマルな構成の中に字幕とカット割を通して、鑑賞者が映画に没入するのを遠ざけている。

 とても冷めた映画でもある。その分、字幕だけが目を泳ぎ、異化効果を生んでいた。あと、荒川の景色が令和の風景とは思えない陸橋を中心に捉えており、16mmフィルムのカメラが画面をどことなく別の時間軸にさせている。ラストの三浦友和は死の近さを感じさせるも、いつでもそこで観戦している出立ちをしており、ケイコが負けたのに「よしっ」と言っている姿で何故か笑いそうになった。